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松山地方裁判所 昭和44年(行ウ)6号 判決 1977年1月31日

松山市桑原町三六〇番地

原告

岸上政太郎

右訴訟代理人弁護士

三好泰祐

土田嘉平

阿左美信義

相良勝美

松山市本町一丁目三番地四

被告

松山税務署長 堀川市夫

右指定代理人

山浦征嵐

徳永孝雄

西原忠信

加地淳二

安西光男

村上真三美

片山卯三郎

今井寿二郎

森池裕一郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1、被告が、原告に対し、昭和四一年一二月二四日付所得税更正通知書により、原告の昭和四〇年分総所得金額を二四八万二、二三九円とする更正処分(但し、昭和四四年一月七日付の裁決で一部取消された後のもの)は、これを取消す。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1(一)、原告は、不動産仲介業を営む者であるが、昭和四一年三月一五日に、昭和四〇年分の所得につき、白色申告書により、総所得金額を欠損金一三三万七、〇〇〇円と確定申告したところ、被告は、原告の総所得金額を四三六万〇、八〇四円とする更正処分をし、そのころ原告に通知した。

(二)、そこで、原告は、右更正処分を不服として、被告に対し、昭和四二年一月二一日に異議の申立をしたが、被告は、同年四月一四日付で異議棄却の決定をしたので、さらに同年五月八日に高松国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は、同四四年一月七日付で、右更正処分の一部を取消す裁決をし、総所得金額を二四八万二、二三九円と減額し、そのころ原告に通知した。

2、しかしながら、原告の本係争年分の総所得金額は前記申告額のとおりであつて、前記更正処分(但し、昭和四四年一月七日付裁決により一部取消された後のもの。以下本件更正処分という)は、原告の総所得金額を過大に認定した違法がある。

3、よつて、請求の趣旨記載のとおりの裁判を求める。

二、請求原因に対する被告の答弁

1、請求原因1の事実は認める。但し、原告が申告したのは、欠損の申告であるから、税法上は確定申告とは言えない(所得税法第一二〇条参照)。

2、請求原因2、3は争う。

三、被告の主張

1、不動産仲介業の所得について

(一)、収入金額

原告の、本係争年中における収入の基礎となつた不動産の譲渡、貸借の仲介については、被告の確知し得たもの、及び原告が主張するものを一部採用すると、別表一(1)(2)記載のとおりとなり、その仲介手数料収入金額は四九四万八、〇〇五円である。

(二)、事業所得金額

(1)、一般経費控除後の所得金額(推計にもとづく)

原告は、過少申告をした昭和三九年分以前の所得については、被告の税務調査に協力的で、その調査の結果、自主的に修正申告をした状況は次のとおりであつた。

確定申告額 修正申告額

昭和三七年 八〇万二、〇〇〇円 二三九万一、〇〇〇円

同 三八年 一二五万〇、〇〇〇円 三二四万二、一七〇円

同 三九年 一三五万〇、〇〇〇円 五六〇万〇、〇〇〇円

ところが、本係争年分の所得については、原告の申告によると、所得金額が多額の欠損となつているので、その理由を調査する必要から、被告の係官は、昭和四一年一〇月一七日原告方に赴き、原告に所得の計算書、領収書等の提示を求めたところ、同人は、計算書類の整理をしていないとの理由で整理期間の猶予を求め、同月二七日までに右書類の整理をする旨約束したが、右期日までに計算書類の整理を完了せず、そのため整理期限を同月三一日、一一月四日と順次延期し、調査を延ばしたものの、いつこうに約束を果さなかつたので、被告の係官は、被告側で自から原告の帳簿、書類等を整理する旨申し入れたところ、原告は、外出勝ちであるから整理のための調査に応じられないとして、右申し入れを拒否してきたため、被告は、原告の本係争年分における一般経費を直接把握することができず、やむを得ず、同業者の収入金額に対する一般経費控除後の所得金額の割合(以下一般経費控除後の所得率という)を適用して算出することとし、同業者の一般経費控除後の所得率平均が約八四パーセント、その率の最低のもので約七七パーセントであることから、右所得率の最低である七七パーセントをここに適用し算出すると、一般経費控除後の所得金額は別表二の番号6の被告主張額のとおり三八〇万九、九六三円となる。

(収入金額)(一般経費控除後の所得率)(一般経費控除後の所得金額)

494万8,005円×0.77=380万9,963円(円位未満切捨て)

(2)、特別経費

被告の調査によれば、原告の本係争年分の特別経費は、その内訳が次のとおりとなるから、別表四(2)被告認定額欄記載のとおり四六万七、〇九四円となる。

イ、雇人費

被告の係官が、調査のため原告の事務所に赴いた際、原告の従業員は一名で、その給与として月給一万五、〇〇〇円、ボーナスとして月給の二ケ月分が支給されていることを確認し、雇人費を次のとおり二一万円と認めた。

(給料年額) (ボーナス)

1万5,000円×12+1万5,000円×2=21万円

ロ、支払利子

原告の支払利子は、別表二番号10の被告主張額欄記載のとおり二五万二、〇〇六円と認めた。

ハ、建物償却費

原告が事業の用に供している建物は、同人の妻岸上初子所有名義にかかるもので、その建物の取得価額を原告が明らかにしないので、やむを得ず、右建物の固定資産評価額三三万二、六〇〇円をもとに、事業の用に供されている建物部分の割合(店舗割合)を五割とみて、次のとおり五、〇八八円を建物償却費と認めた。

(建物の減価償却費計算の基礎となる価額-残存価額)(耐用年数30年の定額法による償却率)(店舗割合)

(33万2,600円-3万3,260円)×0.034×0.3-5,088円

2、不動産売買による収入について

原告は、昭和四〇年三月二五日ころ、栗林兼夫から、同人所有の松山市南江戸町字斉院井手一、一〇六番一、宅地一一〇坪(三三〇・五七平方メートル)を買主山崎勝子なる架空人名義をもつて代金八五万円で買受け、これから順次(イ)同番三、宅地三〇・〇二坪(九九・二三平方メートル)、(ロ)同番四、宅地三〇・〇四坪(九九・三〇平方メートル)、(ハ)同番五、宅地四五・〇四坪(一四八・八九平方メートル)を分筆して(ニ)元番たる同番一、宅地三二・一七坪(一〇六・三四平方メートル)の四筆とした-(ハ)の土地の分筆に際し地積を更正した-うえ、同年九月一日ころ、(イ)の宅地を中尾久雄に対し代金五七万円をもつて、同年同月二〇日ころ、(ロ)の宅地を鎌田和夫に対し代金同額をもつて、同年一二月一七日ころ、(ハ)及び(ニ)の宅地を共同買受人石川盛隆及び菅、福富両名に対し代金一四六万円をもつてそれぞれ売渡し、よつて、右買受代金八五万円と売渡代金合計二六〇万円との差額一七五万円の収入を得ているので、これは原告の本係争年分の事業所得である。

3、まとめ

以上のとおりであるから、原告の本係争年分の総所得金額は、別表二番号13の被告主張額欄記載のとおり五〇九万二、八六九円となり、この範囲内でなされた本件更正処分には、なんら取消されるべき違法はない。

四、被告の主張に対する原告の答弁

1、被告の主張1(一)のうち、原告の収入の基礎となつた不動産の譲渡・貸借の仲介収入に関する別表一(1)記載のうち、番号16の仲介につき、譲渡人から受領した仲介手数料は五万円のみである。その余の同表記載の仲介手数料及び同表(2)記載の住宅の貸借の仲介による仲介手数料の各収入についてはすべて認める。

2、その余の被告の主張は1(二)(2)ハの建物償却費の点を除いてすべて否認し、又は争う。

五、被告の主張に対する原告の反論

1、不動産仲介業の所得について

(一)、収入

原告の自主計算によれば、別表一(1)記載のうち、番号3、6、8、9の仲介については、共同仲介であつたために、他の同業者に対し、別表三記載のとおりの仲介手数料の配分をしたもので、差引収入金額は、別表二原告主張額欄記載の収入金額四七九万八、〇〇五円から、同業者に支払つた配分額一〇八万七、二九〇円を差引いた三七一万〇、七一五円である。

(二)、一般経費

原告の本係争年分における一般経費の明細は、別表四(1)記載のとおりであり、その合計は三五五万二、二五一円となる。

(三)、特別経費

原告の本係争年分における特別経費は、別表四(2)原告主張額欄記載のとおり九八万七、〇一五円である。

2、不動産売買による所得について

被告の主張2の不動産の売買は、すべて訴外山本重吉が行なつた取引であつて、原告の関知しないものである。

3、まとめ

以上のとおりであるから、原告の本係争年分の所得金額は、別表二原告主張額欄記載のとおり八二万八、五五一円の欠損となる。

六、原告の反論に対する被告の主張

1、共同仲介業者に対する配分について

仲介業者の一般的な慣行として、同業者数人が共同して仲介をすることはままあることで、原告が代表で仲介手数料を受け取り、それを他の同業者に配分した場合には、収入金額の算出にあたり、右配分した金額を差し引くべきことはもとより当然のことであるが、逆に、共同仲介により、他の同業者から原告が配分を受けた場合には、これを加算すべきものであるところ、原告は、自己が他の同業者に支払つた配分額についての減算を主張するのみで、共同仲介により他の同業者から配分を受けた金額については、その申告をしないのであるが、原告の本係争年中における現金入出状況をみてみると、原告は、本係争年中に必要経費(一般経費及び特別経費)として四五三万九、二六六円を出金したとするのであるから、少なくともその支出相当額に見合うだけの資金がなければならないはずであるところ、原告主張にかかる収入金は三七一万〇、七一五円にすぎず、これと必要経費(出金)との差額(出金超過)八二万八、五五一円については、その資金の出所が不明であり、このことは、原告の事業収入金に関する自主計算に計上漏れがあるか、又は、必要経費としては認められないものを計上しているかのいずれかによるものと窺われるのであるが、原告が、被告の係官の調査に際し、帳簿資料の提示を拒むため明らかにされず、そこでやむを得ず、共同仲介による配分の授受につき、減算額(支払つた部分)と加算額(支払を受けた部分)を同額とみて、原告の同業者に支払つた配分額一〇八万七、二九〇円につき、減算計上せよとの原告の主張を認めないこととした。

2、一般経費について

一般的に、原告のような不動産仲介業者は、製造業者・販売業者のように原価性費用がないので、総収入金に対する費用額の割合が、かなり低率となることは明白であるところ、原告の主張によれば、費用の額が収入金を上まわり、いわゆる欠損状態にあるが、特別事情がないかぎり、仲介業者において、このような損益計算がなされるとは到底考えられないうえ、会計学上の費用収益対応の原則として、収益と費用との差額を損益として計算する場合、その差額が損金として意味ある数値であるためには、収益と費用とが互いに対応関係になければならず、このことは、所得税法においても、事業所得金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、収入金額を得るため直接に要した費用の額及び一般管理費、その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額としているものであるところ(所得税法三七条)、原告主張の別表四(1)記載の経費項目毎の金額は、「何時」、「何処で」、「誰と」、「どういう目的で」、「要した経費の額」等の点につきいずれも不明確で、原告が、不動産仲介業により、収入金額を得るために直接に要した費用であることが、客観的かつ合理的に認められるものとは言えず、さらに、被告の調査によれば、同業者の収入金額に対する一般経費の割合(以下一般経費率という)が、平均一六パーセントにすぎないのに、原告のそれは、次のとおり九五・七パーセントにも達する異常なものであつて、それゆえ、原告主張の一般経費をそのまま認めることはできない。

(一般経費の額) (収入金額)

355万2,251円÷371万0,715円×100=95.7%

第三、証拠

一、原告

1、甲第一ないし第一八六号証、第一八八ないし第三一八号証、第三二〇ないし第三四五号証、第三四六号証の一、二及び第三四七ないし第五七九号証を提出(甲第一八七号証及び第三一九号証は欠番)。

2、証人岸上初子の証言及び原告本人尋問の結果を援用。

3、乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三ないし第五号証、第六、第七号証の各一、二、第八号証の一ないし三、第九号証、第一〇号証の一ないし三、第一一ないし第一五号証、第二一号証、第二二号証の一ないし四、第二三ないし第二七号証、第三〇、第三一号証、第三三号証の一ないし九、第三四号証の一ないし三、第三五号証、第三八号証の一、二、第三九号証、第四〇号証の一、二、第四五号証及び第五〇、第五一号証の各一の成立はいずれも不知、その余の乙号各証の成立は認める。

二、被告

1、乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三ないし第五号証、第六、第七号証の各一、二、第八号証の一ないし三、第九号証、第一〇号証の一ないし三、第一一ないし第二一号証、第二二号証の一ないし四、第二三ないし第二七号証、第二八号証の一ないし三、第二九号証の一ないし四、第三〇ないし第三二号証、第三三号証の一ないし九、第三四号証の一ないし三、第三五号証、第三八号証の一、二、第三九号証、第四〇号証の一ないし五、第四一ないし第四九号証、第五〇号証の一ないし三、第五一号証の一、二、及び第五二号証を提出(乙第三六、第三七号証は欠番)。

2、証人関口忠、同大西敬、同藤原稔、同西条義秋及び同西原忠信の各証言を援用。

3、甲第一ないし第三号証、第二一号証、第二九ないし第三三号証、第四五号証、第六二ないし第八八号証、第九〇ないし第九七号証、第九九号証、第一〇二ないし第一〇五号証、第一〇七号証、第一〇九ないし第一一二号証、第一一四ないし第一三七号証、第一四一ないし第一六三号証、第一九〇号証、第二二四号証、第二五三、第二五四号証、第三二一ないし第三二三号証、第三二五ないし第三二七号証、第三三三号証、第三三六ないし第三四一号証、第三四八号証、第三五二、第三五三号証、第三六〇、第三六一号証、第三六三、第三六四号証、第三七一号証、第三七四、第三七五号証、第三七七号証、第三八〇号証、第三八六号証、第三九四号証、第三九六号証、第三九八号証、第四〇一ないし第四〇三号証、第四〇八号証、第四一一号証、第四一三号証、第四一五、第四一六号証、第四二一、第四二二号証、第四二六号証、第四三一ないし第四三五号証、第四四一ないし第四四三号証及び第五六四号証の成立はいずれも認め、その余の甲号各証の成立は不知。

理由

第一、本訴提起までの経過

一、本訴提起までの経過

原告が不動産仲介業を営む者であること。原告が、昭和昭和四〇年度分の総所得金額を欠損金一三三万七、〇〇〇円と申告したところ、被告が原告の総所得金額を四三六万〇、八〇四円とする更正処分をしたので、原告は、右更正処分を不服として、被告に対し異議申立をしたこと。被告は、それに対して異議申立棄却の決定をしたので、さらに、原告が高松国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は、右更正処分の総所得金額を二四八万二、二三九円と減額する旨の裁決をなしたことは当事者間に争いがない。

二、推計課税方式の採用

証人関口忠、同藤原稔及び同岸上初子の各証言並びに原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨を総合すると、昭和四一年一〇月二七日ごろ、被告の係官がはじめて原告の本係争年分の所得の調査に赴き、前記のごとき原告の所得の申告の裏付資料の提出を求めたところ、原告は、関係書類の整理ができていないとの理由で整理期間の猶予を求め、その後度々被告の係官が右資料の提示を求めたけれども、原告は、帳簿等の提示を拒んだので、被告は、やむなく、所要の調査をして原告の本係争年分の所得を推計によつて把握し、更正処分をしたこと・原告は、その後異議の申立て、審査請求の各段階においても、被告側の調査について協力をせず、資料の提示をしなかつたので、被告側は、その後の各処分においても、調査の結果実際の確定できない収支金額については、推計にもとづいて算出し、原告の本係争年分の所得額を確定し、前記の処分をしたものと認められ、この認定事実に反する証拠はない。

第二、不動産仲介業の所得について

一、収入金

1、原告の本係争年における収入の基礎となつた不動産の譲渡及び貸借の仲介による収入は、別表一(1)の番号16の「譲渡人から受領した仲介料」の金額の点を除いたその余の同表(1)の仲介料収入の合計金額が四五八万七、二〇五円であること・同表(2)の仲介料収入の合計金額が一六万〇、八〇〇円であることは当事者間に争いがない。

証人西条義秋の証言によつて真正に成立したと認められる乙第三一号証によると、原告が別表一(1)の番号16の仲介にあたつて譲渡人から受領した仲介料は、二〇万円であつたことが認められ、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

したがつて、原告の本係争年における不動産の譲渡及び貸借の仲介による収入の合計金額は、四九四万八、〇〇五円となる。

2、ところで、原告は、不動産の譲渡による仲介料収入につき、別表一(1)番号5、6、8、9の仲介については、他の同業者と共同仲介であつたため、同業者に別表三記載のとおり仲介手数料を配分したので、その配分額合計一〇八万七、二九〇円を右収入から控除すべきであると主張するが、原告の右主張事実を認めるに足る証拠はない。

二、一般経費

1、被告が本件更正処分をするまで原告から帳簿書類等何らの所得の裏付資料の提示がなかつたために、原告の本係争年分の必要経費を実額をもつて把握することができなかつたことは、前記認定のとおりである。

2、ところで、原告は、本訴においてはじめて、本係争年分の一般経費が三五五万二、二五一円である旨主張し、右経費額を立証するため多数の甲号証を提出したのであるが、この書証をもつて、右経費額の立証があつたとはしがたい。

すなわち、右甲号証は、そのうちに(イ)支払者が原告以外の者であつたり、それが不明であつたりするもの(別表六の1欄記載のとおり)、(ロ)支払年月日が不明であるもの(同じく2欄記載のとおり)、(ハ)家事関係費に関するものか、そうでなければ家事関係費が含まれているため事業上の経費部分が明らかでないもの(同じく3欄記載のとおり)、(ニ)当該金額の支払目的が明らかでないもの(同じく4欄記載のとおり)、(ホ)収入を得るために直接要した経費とは認めがたいもの(同じく5欄記載のとおり)、(ヘ)本係争年分の経費と認められないもの及び経費とはならないもの(同じく6欄記載のとおり)等が多数あることが明らかである。

なお、成立について争いのない乙第二八号証の二、第五一号証の二、第五二号証、証人西原忠信の証言によつて真正に成立したと認められる乙第三三号証の一、第四五号証及び第五〇号証の一並びに原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、当時愛媛県不動産鑑定協会連合会長の職にあり、昭和三九年ころから松山市内に日本不動産鑑定専修学院四国分校を開設し、その分校長として、不動産鑑定士試験の受験者のため、たびたび講習会を催し、その講師の接待等のため相当の経費を支出したことが認められ、原告が一般経費の一部であると主張する接待交際費、旅費交通費その他の経費のうちには-その実額の証明があつたとは言えないが-右接待費等が含まれていると推認するにかたくなく、原告の事業所得の必要経費とすることはできないというべきである。

したがつて、原告提出の甲号証のうち、少くとも別表六掲記のものについては証拠価値がなく、その余の書証によつても、とうてい原告が主張する一般経費額を認定することができない。

結局のところ、本訴においても、原告の本係争年分の一般経費についてその実額を明らかにし得る資料がないことに帰するので、推計によつて算出するほかなく、その方法が合理的である限り許されるものというべきである。

3、証人大西敬の証言によつていずれも真正に成立したと認められる乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三ないし第五号証、第六、第七号証の各一、二及び第八号証の一ないし三並びに右証言によれば、高松国税局長が同局管内のうち、愛媛県下の松山、今治、新居浜、宇和島の各税務署及び高松、高知、徳島の各税務署管内において、不動産仲介業を営む個人(青色、白色申告者の双方を含む)につき、右税務署で昭和四〇年分の所得の収支実額調査を行なつたもの(年の中途で開、廃業した者、兼業者で区分計算ができない者、災害等により経営状態が異常の者、不服申立や訴訟係属中の者を除く)で事業所得が申告によつて既に確定している者を対象として、各税務署長に対し、その収入金額、所得金額、差益金額等を実地調査した結果を同業者調査票として提出させたところ、松山税務署では、該当者二名、今治、新居浜、宇和島の各税務署では、該当者なし、高松、高知各税務署では各一名、徳島税務署では二名の各該当者が得られたこと・右該当者六名につき、一般経費控除後の所得率を算出してみると、別表五のとおりその最高が八九・四一パーセント、その最低が七六・八六パーセント、その平均が八四・一二パーセントとなることが認められ、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

右に認定した調査結果によれば、不動産仲介業者の一般経費控除後の所得率(反面収入金額に対する一般経費の割合)は、ほぼ平均しているものということができ、右調査の結果得られた原告に最も有利な最低の一般経費控除後の所得率である七七パーセント(最低の所得率七六・八六を小数点以下を四捨五入したもの)を適用して原告の一般経費を控除した後の収入を算出すべき旨の被告主張の推計方法は合理性があり、本件では許されるものというべきである。

よつて、次の算式により原告の本係争年分の一般経費を算出すると一一三万八、〇四二円となる。

(不動産仲介による収入合計)(一般経費控除後の所得)

494万8,005-(494万8,005×0.77)≒113万8,042(円)

4、そうすると原告の本係争年分の一般経費控除後の不動産仲介業の所得は、不動産仲介による収入合計の四九四万八、〇〇五円から一般経費の合計一一三万八、〇四二円を控除した三八〇万九、九六三円となる。

三、特別経費

1、雇人費

証人大西敬の証言によつて真正に成立したと認められる乙第九号証によると、雇人費は、二一万円と認められ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。

2、支払利子

証人大西敬の証言によつていずれも真正に成立したと認められる乙第一〇号証の一ないし三及び証人西条義秋の証言によつて真正に成立したと認められる乙第一一、第一二号証によると本係争年において原告の支払つた利子の合計は、三〇万四、五五六円であることが認められる。しかし、他方、証人西原忠信の証言によつて真正に成立したと認められる乙第一八号証、第三三号証の五ないし九及び前掲第一一号証によると、原告は、愛媛相互銀行大街道支店から借入れた六〇万円のうち五一万円で同銀行の株式を取得したことが認められ、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。ところで右株式取得に要した借入金の利子は、その株式の配当所得の必要経費に算入されるものであるから、右借入金六〇万円に対する支払利子一年分六万一、八二四円のうち、次の算式によつて算出した五万二、五五〇円を前記三〇万四、五五六円から控除した残額二五万二、〇〇六円が事業所得の計算上控除できる支払利子額となる。

<省略>

(借入金60万円の1年間の利子合計金額)(株式購入分の割合)

3、建物償却費

被告は、原告がその事業の用に供している建物は、原告の妻初子の所有名義にかかるもので、その取得価額を原告が明らかにしないので、やむを得ず同建物の固定資産評価額三三万二、六〇〇円をもとに、事業の用に供されている建物部分の割合(店舗割合)を五割とみて五、〇八八円の建物償却費を算出し(残存価額一〇パーセントとして、耐用年数三〇年の定額法による係数〇・〇三四を乗じる方法による)、これを原告の事業上の経費と認めた旨主張し、原告が右被告の主張を明らかに争わないので、原告がその事業の用に供している建物は、妻初子の所有であつて、その本係争年分の償却費は五、〇八八円であるとなすべきである。

そうして、この場合、原告が初子に対しその主張にかかる家賃四万八、〇〇〇円を支払つていたとしても-その事実の証明はない-、それは、ただちに原告の必要経費として認められず、ただ初子がこの建物の賃料収入を得るための必要経費が原告の事業のための経費として算入される(昭和四〇年当時の所得税法第一一条の二第一項)のであるから、右償却費は、原告の本係争年分の経費たるべきものである。

第三、不動産売買による所得について

一、不動産の購入

証人西原忠信の証言によつていずれも真正に成立したと認められる乙第三三、第四〇号証の各一及び右証言を総合すると、原告は、昭和四〇年三月二五日ころ、栗林兼夫から同人所有の松山市南江戸町字斉院井手一、一〇六番の一、宅地一一〇坪(三六三・六三平方メートル、以下土地は地番のみをもつて表示する)を架空人たる山崎勝子名義をもつて、代金八五万円で買受けたことが認められ、右認定に反する原告本人の供述は信用できず、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

二、購入不動産の売却

次に、成立に争いがない乙第四一ないし第四四号証、証人西原忠信の証言によつていずれも真正に成立したと認められる乙第三四号証の一、第三五号証、第三八号証の一、二、第三九号証、第四〇号証の一及び右乙第三四号証の一によつて真正に成立したと認められる乙第三四号証の二、三並びに右証言を総合すると、原告は、昭和四〇年九月一日ころ、前記宅地から同所同番の三、宅地三〇・〇二坪(九九・二三平方メートル)に分筆し、それを中尾久雄に、同月二〇日ころ、右宅地から同様同番の四、宅地三〇・〇四坪(九九・三〇平方メートル)に分筆し、それを鎌田和夫に代金五七万円で、さらに、同年一二月一七日ころ、右宅地を同番の一、宅地三二・一七坪(一〇六・三四平方メートル)及び同番の五、宅地四五・〇四坪(一四八・八九平方メートル)に分筆(その際地積の更正手続をした)し、それを石川盛隆及び菅福富の両名(共有)にそれぞれ売却したことが認められる。もつとも、中尾及び菅ら両名へ売却した価額は明らかでないが、前認定による各宅地を売却した時期、その所在場所の同一性に鑑みれば、その単価は鎌田に宅地を売つた際の一坪当り一万九、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨て、以下の価額も同じ)を下らないと推認されるから、右単価で右中尾らとの間の売買価額を算出すると、中尾との売買価額は、五七万円、菅ら両名との売買価額は、一四六万円を下らないこととなる。

三、所得金額

以上によれば、原告は、不動産売買による所得として、右鎌田外三名への売買価額の合計である二六〇万円から前記売買した宅地の取得価額八五万円を控除した一七五万円を取得したこととなる。

仮りに、この場合も、前記不動産仲介業の例に準じて、一般経費控除後の所得率(七七パーセント)を適用し所得額を算定すべきものとしても、一三四万七、五〇〇円の所得があつたこととなるものである。

第四、結語

以上によれば、原告の昭和四〇年分の総所得金額は、合計五〇九万二、八六九円(あるいは四六九万〇、三六九円)となるから、右金額の範囲内でなされた本件更正処分は適法である。

よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長 裁判官 水地巌 裁判官 岩谷憲一 裁判官 榊五十雄)

別表一(不動産仲介収入)

(1)不動産の譲渡の仲介による仲介料収入

( )内は原告主張額を示す

<省略>

<省略>

(2)住宅の貸借の仲介による仲介料収入

<省略>

別表二

(事業所得計算対比表)

△は損失を示す

<省略>

別表三

(共同仲介業者に支払つた配分額)

<省略>

別表四 (必要経費)

(1) (原告主張の一般経費について)

<省略>

(2) (特別経費)

<省略>

別表五

(不動産仲介業所得率調査表)

<省略>

別表六 (採用できない甲号証一欄表)

<省略>

<省略>

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